1.大手半導体装置メーカがJIT生産を導入

数年前に、半導体装置関連の企業3社からジャストインタイム生産(以下JIT生産)の相談を受けた。顧客企業の大手半導体装置メーカが、JIT生産を本格導入するということで、取引先に対しその旨を通知し、各企業の取り組みを促したとのことである。事情を拝聴し、早速、相談をいただいた企業にJIT生産のアドバイスを実施することとなった。

2.JIT生産と誤解

JIT生産は、今や改善活動の目指すべき完成したモデルとなりつつある。しかし、その認識には、多くの誤解が付きまとっている。購買側からの「多頻度小口納入」要求が「JIT生産」の大義名分の元に実施されることを取り上げ、その弊害を指摘する意見も多い。しかし、単なる「多頻度小口納入」要求は、本当のJIT生産ではない。むしろ安易にJIT納入を要求する企業に限って、社内では成り行き管理のダンゴ生産を放置している場合が多い。

JIT生産の本質は、「多頻度小口納入」にはなく、より内部の取組み「生産の流れ化・平準化」と「現場改善」にこそある。自動車生産の場合は、組立てラインへの部品生産・供給の大半を下請けが受け持つため、生産の流れ化・平準化を実現しようとすると、下請けからのJIT納入が不可欠であり、これがより際立って見えるだけである。

3.JIT生産の本質

では、JIT生産の本質とは何であり、その適用はどうすればよいのか。筆者の体験的研究と導入実績からから得た結論は次のとおりである。

① 生命体のような有機的なものづくりの流れ

トヨタ自動車の(2代目)創業者である豊田喜一郎氏は、戦前の1920年代にすでに「有機的なものづくりの流れ」という考え方を主張している。トヨタ生産方式が形作られたのは、1950~60年代であるが、それから遡ること30年前、量産型の近代工業が唯一の理想とされた時代に、この考え方を述べていることに驚かされる。

人間は、運動してエネルギーを消費すれば、ホルモンや神経の働きにより空腹感が生じ、食べ物(エネルギー)の補充に向かう。又、怪我をすれば、痛みとしてそのことを大脳へ通知すると同時に、その部分を修復させようとする生理作用が働く。しかるに、全てにムダがない。しかし、生産の現場はどうか、正しいはずの生産計画で投入された材料が、工程間で滞留してムダの温床となったり、過剰生産により市場要求とミスマッチとなることが日常である。

JIT生産では、これを、有機的なものづくりの仕組みで解決しようとする。この本質を理解していると、個別手法に縛られず、柔軟に適用を考えることができる。

② 平準化・流れ化

JIT生産では、生産を平準化して停滞をなくし流れ化させることが前提となる。工程間のアンバランス、市場にミスマッチな生産ロット等を対策・平準化し、市場要求に限りなく連動した生産を行うことが求められる。

この実現のためには、ものの流し方の仕組みを変えるだけでは不十分であり、人や機械設備が柔軟に変化対応できる体質が不可欠である。段取り時間の短縮、多能工化、不良ゼロ等が基礎となるのである。

4.現場改善活動

以上のとおり、JIT生産には5Sや改善活動が不可欠である。これらは、JIT生産構築のための手段である同時に、改善力強化・企業競争力向上という直接的な効果をもたらしてくれる。筆者は、JIT生産構築のために次の活動ステップアップを考案し、多くの企業へ導入を実施している。

第一段階 : 整理・整頓・清掃(3S)活動の徹底推進

生産現場の整理整頓を進め、改善活動の基礎を習得するステージ

第二段階 : 見える化・流れ化の仕組みづくり

現場の見える化を進め、停滞要因を排除し、流れ化に移行するステージ

第三段階 : ムダとりの推進

流れを阻害するムダ、仕組みや作業に潜むムダを徹底的に見つけ出し、改善するステージ

これらの3ステージを経て、企業は最高のものづくり力を身につけることができる。貴社にも是非お奨めするところである。